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連載「雑誌を読む」第1回

マニアックでない本格派へ

――『Rock & Snow』Renewal――

松原 尚之

 

「それにしても、『Rock & Snow』はどうにかしてほしいですよねえ……」
「そうか。俺はそんなに嫌いじゃないけどな。それに岩雪よりだいぶ売れてるらしいぞ」
「ほっ、本当ですか!?」
「そうだよ、本屋でも平積みになってるだろ。ロクスノのあの世界が世間ではふつうなんであって、毎週冬壁に通い、冬の谷川なんかに嬉々として出かけるお前みたいなやつの方こそマニアックな少数派なんだよ。君たちはそれを自覚しなきゃアカンよ」

 2年ほど前に冬の一ノ倉に行った折り、後輩とそんな会話をかわしたことがある。老舗の社会人山岳会に所属し毎冬積極的な冬壁通いを続けている後輩は、私からも当然のごとく同意の返事をもらえると思っていたのに岩雪より売れているなどと聞き、真底驚いたという風だった。

 私の後輩の例を出すまでもなく、日本のマジメなアルパイン・クライマーたちの間であまりにも評判が悪かった旧『Rock & Snow』。彼らの気持ちを私は理解することができるし、あの内容を高く評価していたわけではないけれど、そんなに嫌いじゃなかったというのも本当である。
 それは、アメリカのフリークライミングエリア情報など、もっかのところ自分が一番関心のあるジャンルの記事が比較的頻繁に載っていたせいもあるが、と同時に、旧『岩と雪』とは対極にある、その思想性のなさに何がしかの共感を抱いたからでもあった。
私は『岩と雪』という雑誌を高く評価するものだし、むろん愛読者の一人として少なからざる影響をその紙面から受けて育った。しかし、岩雪が刊行されていて、私もまだ二十代だった頃、私は『岩と雪』のまさにその強い影響力に対し、反発心もまた持っていた。

 『フィックスロープは手すりにあらず』
10年以上前に読んだ、そんなタイトルの岩雪の巻頭言をまだ覚えている。
「少人数無酸素アルパインスタイルこそ至上」といった欧米登山界の風潮をただ追随するだけの(と、当時の私の眼には映った)岩雪の“思想”や、それに何の疑問も抱かずに迎合する日本の多くのクライマーたちは、私には極地法でしかヒマラヤに行けない大学山岳部出身者と同じように画一的に思えたし、その一方的な考え方を敷衍する同誌の高い影響力は日本の登山界にとって決して好ましいものではない、などと生意気盛りの私は考えていたのである。だからと言って私が、フィックスロープをはりめぐらすような登山を評価していたわけでも、大がかりな極地法ヒマラヤ登山に憧れていたわけでもないところが複雑なところで、まあ要するにそんな天の邪鬼な私にしたって、結局はそうとうなところまで池田ジョードー尊師に洗脳されていたというわけだ。
そして世紀の変わり目が訪れ、日本経済はかつてない長期の不況に喘ぎ、若者たちはキレまくり、『岩と雪』はその歴史を閉じ、ロクスノ(旧『Rock & Snow』)が新たに創刊された。
 「別冊山と渓谷」という断り書きがついたその新生『岩と雪』は、名前を横文字に改め、版形もA4と大きくなり、さながら『山ケイJOY』のクライミング版のようだった。絶対数の少ない一定レベル以上のアルパインクライマーたちではなく、アルパインクライミングにおけるエントリー層やビギナー層、およびスポーツクライマーたちを主たる対象に選び、その読者層の底辺拡大を企図したものであることが一目見て明らかだった。そのコンセプトは誰の目にも明解で、もはやそれは『岩と雪』のRenewalなどでは断じてなく、まったく別の新しい雑誌であるということをすべてのクライマーたちが理解した。
それはそれで、あながち的はずれな着想ではなかったのではないかと私は考える。いくら内容の評価が高かろうと、赤字とまでいかないまでもほとんど儲けが出なかったと言われる『岩と雪』は、この現代資本主義の社会にあって立ち消える運命にあったのだから。

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