|
雪庇踏み抜き
●ヒヤリハット度:★★★★★
●北ア・爺ヶ岳北稜
●2001年4月1日
●木下(日本山岳会青年部)・三好(秀峰登高会)
3/31(雪)
鹿島6:10〜爺東尾根1978m先10:50〜爺北稜12:10〜第1岩峰直下(2100m付近)15:00
爺東尾根自体は膝下のラッセルで問題なし。谷に降りると膝上のラッセルになり、少し気持ち悪い。一ノ沢を100mほど詰めたところから急雪壁をラッセルする。15時過ぎから急に天気が悪くなる。偶然、第1岩峰直下に深さ3m、幅1.5mのシュルントを見つけ、中を削ってツェルトを張る。シュラフカバーのみで、全身が濡れているので、非常に寒い。
4/1(吹雪)
第1岩峰直下(2100m付近)5:20〜第2岩峰9:00-10:30〜その上のキノコ雪11:50-13:10〜2500mプラトー21:30
昨日から引き続き雪。最初の第1岩峰は右から巻けずに、雪崩れそうで気持ちが悪くなるような東尾根側の雪壁をトラバース後、直上。ここだけで1時間半かかる。この上はリッジだが、雪の状態が悪いので、ロープを付けて、スノーバーでランナーを取りながらの股下ラッセルとなる。
第2岩峰は冷尾根側の雪壁を100mトラバースしてから、これまた非常に悪いきのこくずし。スノーバーが全然決まらないような雪質。足が滑っただけで楽に20mは吹っ飛びそうだ。
その1つ先のきのこ雪は完全にかぶっている。上に行こうとするので、「そんな時間がないから尾根に乗りやすいところまでずっとトラバースする」ように指示する。結局、冷尾根側の急な雪壁を100m近くトラバースした後、ルンゼ状雪壁から尾根に上がる。
その先から急に胸ラッセルになる。ここまで来てしまうと、もはや戻ることなど不可能。ホワイトアウトな上に尾根右手に大きな雪庇を持っているため、50m進むのにも非常に時間がかかる。最初の事件はここで起きた。自分がラッセルを始めてから約80m。視界が10mもなく、平衡感覚の欠如を恐れたので、ピッケルを振り回しながら、雪と空の境目を確認しながらラッセルしているときだった(13:30)。
事故発生
いきなり、足下に亀裂が走る。やばい!雪庇だーと思ったが、もう遅かった。気がついたら頭を下にして飛んでいた。体が完全に宙を舞った。コンテにしていたので、一蓮托生か?と思ったが、20m弱落ちて止まった。下をみれば、ものすごい雪崩だ。下には高度差にして約100m近い空間が広がっていた。35kg差なのに、よく止まったと思う。しかも肩をちょっとぶつけた以外はどこもぶつけなかったみたいだ。
しかし、上を見れば、どっかぶりの崩れそうな雪庇が残っている。とりあえず、そのままロープ1本に頼っているのもなんなので、傾斜が垂直に近い草付にアックスを打ち込み、ロープからアックスに荷重を移す。
続いてロープを引くが何の反応もない。コールしても何の返事もない。「やべー、雪面に叩き付けられて意識失ってんのかなー」とか、「とっさの判断で反対側に飛んだのかなー」とか考えながら5-6分したとき、「木下くーん、だいじょーぶ?」初めてコールがあった。あー助かった・・・。
しかしロープは雪庇に食い込んで外れない。結局、泣きたくなるような垂直の草付の壁を20m近くダブルアックスで登り返し、たまたま持っていたスノーバーを雪庇に叩き込んで、セルフを取る。しかし、完全にテンションをかけると吹っ飛ぶなかなかすばらしい支点だ。しかも草付を上に登ってしまうと、ロープは下から出るような感じになるので、ほとんど付いていないのと同じだ。
次落ちたら、もう終わりだなーとか思いながら、あーだこーだやって見るが、結局上がれない。ユマーリングもやったが、逆にロープが雪に食い込んで、ますます状況が悪くなるだけだった。結局、スコップをロープで降ろしてもらって、下から雪庇を落とす作業をやって、なんとかはい上がった(16:30)。3時間もかかってしまった。
天気も夕方から急に晴れてきた。ショックで、稜線にはい上がってからは足がガクガク、放心状態。指も凍りついて凍傷だ。トップでロープを延ばすことが出来ず、三好さんにすべてラッセルしてもらうことになる。ここからもずっと胸ラッセルで、1ピッチ1時間かかる。行動終了まで結局5ピッチほどしか延ばせなかった。
落ちなかったとして、間に合ったかどうか分からないが、結果的には、この墜落が下山日遅れを決定的なものにし、しかも、尾根上に這い上がるまで3時間を要したことで、7本の手指が凍傷になってしまった。
強引に稜線に上がって爺ヶ岳東尾根を夜間下降するという話もあったが、稜線に上がる際に雪庇崩しが入るので、安全を考え2500m付近で北峰が見えるところで掘り込んで、着の身着のままでビバーク(21:30)。出発前夜から運転などでほとんど眠れず、今日も朝からラッセル続きでボロボロだ。食料ほとんどなし。あめ玉2つぶだけ食べた。ガスはお湯を沸かす程度のみ。なんとか松原さんのところに、下山遅れの旨の電話を1本だけ入れる。
4/2(快晴)
BS4:50〜8:30北峰〜9:30爺中央峰〜12:50鹿島
朝イチからロープを付けてラッセルするが、時間ばかりがかかる。朝の2ピッチだけ三好さんに続けてやってもらう。この日もロープはつけっぱなし。冷尾根が合流するところと、稜線直下で雪庇くずしが入った。
三好さんもフラフラで歩みは遅く、稜線直下は自分がラッセルする。この辺り、弱層だけで約1m。いつ雪崩れてもおかしくない感じ。どうしても早く上がりたかったのと、今までもっと急な斜面で雪崩れなかったので、今回も行けるかと思って、なんでもない斜面をちょっとだけ斜めに上がったところ、北峰に上がる5m手前で、いきなり雪面がスライド。目の前で、幅70mにわたって亀裂が入り、一気に雪崩れる。自分も5m強だが流される。死んだとおもったー。後ろを見ると、顔が今にも泣きそうな感じで引きつっている。
気を取り直して、北峰に上がる。8:30に山頂着。ここまでずっとアイゼン+ワカンであった。
2人ともガス欠でフラフラであるため、中央峰まではコンテ。以後、快晴の中、トレースをたどり、鹿島に降りる(12:50)。
事故を振り返って
いつもはちょっとのことでは動揺しない人間だが、さすがに小便をちびりそうになるほどビビった。ロープがついていなければ、100mや200mの墜落では済まず、雪崩に巻き込まれているか、その前に首の骨を折って即死しているか、100%死んでいたと言える。単に運が良かっただけであろう。
急に胸ラッセルが混じるようになったときには、すでに戻る事は不可能で、その前の雪質から判断すべきであったと言える。アルパインクライマーは、とりあえず突っ込んでから考える人種が多いようにも感じるが、その前に冷静な判断を下す事が必要だ。
|