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大阪から電車を乗り継いで一時間弱の駅で下車し、肌に突き刺さるような真夏の日差しを受けながら本屋の前で待っていると、その怪人はにこやかな笑顔でやってきた。眼鏡の奥の優しい目、野太い二の腕、冬の黒部を縦横に走る怪人。あらゆる手を尽くし、経験をつんだパーティーでも、その成功率は5割を切るという冬の黒部横断。それを十数回にもわたって成し遂げた怪人。それがサンナビキ同人の和田城志さんその人である。和田さんについて住宅街の細い道を歩いていくと、花木が良く手入れされた庭を持つご自宅にたどり着く。今流行りのガーデニングという奴だろう。
和田さんの奥さんが、迎えてくださった。リビングに通され、まずは、とビールをいただく。奥様がつまみの小皿をテーブルに並べてくださる。
和田さんがにこやかに冗談をいい、奥様がそれに応える。
電話で2〜3回しか話しただけが、それまでの唯一の接触であった。そんなことをひとつも感じさせない雰囲気があった。正直、もっと険しい方を想像していた。あの冬の黒部に通いつめ、常人離れした登山を続ける怪人である。やばい登山を続ける人間にありがちな、鋭さと幾ばくかの狂気を秘めた目。和田さんの目は終始にこやかであった。
しかし、彼は言った。
「山で靴ほどけてる奴見たら怒鳴りつけてやる!」
少なくとも普段は温和な方のですね・・・。
−和田さんは、やはり冬の黒部のイメージが強いですが、海外登山の経験も豊富ですよね。
和:登った山は8個あるよ。前半カラコルム行って、後半ネパール行ったりしてね。
−無茶苦茶行っていますね。どんな山登ったんですか?
和:マッシャーブルム、ブロードピーク、カンチェンジュンガ、ゲント、プモリ、ランタンリルン、シューリバルパード、ヌンクの近くの無名峰
−詳しく知りませんでしたが、すごいキャリアですよね。
和:無許可で行って、記録発表してなかったりするからね。
−え、書いちゃって良いんですか!?
和:昔の話や、かまわへんやろ!
−和田さんの海外登山って言えば、ナンガバルパッドが有名ですよね。
和:そう。三回行って、三回とも失敗している。縁がないっちゅうのかなぁ・・・。
−でも、やはりフィールドは冬黒部ですか?
和:そうやなぁ。メインは冬の黒部やな。
−冬の黒部のいい所は?
和:間違いなく期待を裏切らない山域やね。本当に厳しい自然の中に入り込んでいくって感じや。
−冬の黒部は、行きたいって思うけど、まだまだ尻込みしてしまいます。
和:ほんに大学山岳部で山を真面目にやろうか、言うような連中には絶対お薦めのところやな。
−大学山岳部にですか・・・?
和:そうや。長いし厳しいし、時間が腐るほどある大学山岳部にはうってつけや。
−でも、最近の大学山岳部は私を始め軟弱ですからね・・・。
和:最近の学生の冬合宿は年が変わらんうちに終わるらしいね?
−そうですね・・・。長い山行は後輩が嫌がって・・・。おまけに冬期休暇も短くなって・・・。
和:最近の学生は勉強するらしいなぁ。
−はぁ・・。
和:ホンマもったいない話や。社会人になったら冬の黒部なんて行けなくなるのになぁ。
−でも、僕も十字峡横断は一度は行きたいですね。
和:黒部横断も、下ノ廊下、上ノ廊下、いろいろあるけど、やはり十字峡に代表される下ノ廊下が一番やなぁ。剱岳はホンマええ山やからね。
−やはり、ラストは剱ですか?
和:黒部はホンマにしんどいけど、向こうにあの巨大な剱がある。その前に、凍傷になんかなったら剱なんて登られへんからね。
−剱に登るための黒部横断なんですか?
和:そ、剱への流れの中での黒部横断なんや。
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